木下稜介プロに学べ!
一流ビジネスパーソンへの道
2022年10月、ネオジャパンはプロゴルファー・木下稜介プロへのスポンサー契約更新を決め、同氏と共に二年目の戦いが始まった。
木下プロは、21年『日本ゴルフツアー選手権』で念願の初優勝。次いで『ダンロップ・スリクソン福島オープン』でも劇的な逆転勝利を果たし、日本選手初となる初優勝からの連勝をもぎ取った。同年、さらに「賞金1億円突破一番乗り」も果たすなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている選手だ。今回、そんな木下プロにインタビューを敢行する機会を得た。マイクを向けると、「試合より緊張するな~(笑)」とはにかみながら、一流アスリートだけが語れる名言を連発。そんな彼の言霊から、我々ビジネスパーソンが胸に刻むべき心構えを詳らかにしたい。
Q.初優勝に至るまでの道のりは?
僕はゴルファーとしては遅咲きの選手で、プロになってから29歳で初優勝するまでじつに8年の歳月が必要でした。周囲の20代前半の選手たちが次々に優勝を決めていくなか、焦りましたね。僕も20代前半で優勝するという目標を掲げていましたから、本当に苦しくて。でも、不思議と「夢を諦める」気持ちは一度もありませんでした。いつもどこかで「自分はきっと出来る」と信じていて、ただひたすら前を向いて練習に取り組んできました。それに、ゴルフは個人競技ですが、決して一人ではないんですよね。応援してくれるファンの皆さんやスポンサーさんが居てくれる。それが8年間の“下積み時代”を耐えられた一番の原動力だと思っています。
極意:根拠がなくても良い、「自分ならきっと出来る」と信じること!
Q.優勝して変わったこと
ゴルフをやる人じゃないと伝わらないかもしれないけど、気持ちに余裕が出来て、それと共に視野がググッと拡がりましたね。コースやグリーンが大きく見えたり、カップも以前より大きく感じられたり。優勝するまでは、とにかく「勝ちたい、勝ちたい」と強いプレッシャーが掛かっていて、どんどん視野が狭まるばかり。カップが小さく見えるから、当然入らない。そんな悪循環が、優勝を手にしてパッと断ち切れたんです。ゴルフはメンタルのスポーツと言われますが、この時はそれをひしひしと感じました。調子が悪いと無意識に、OBゾーンなど、「飛ばしてはいけないところ」に目が行ってしまったりする。今は広大なグリーンと大きなカップに向かって気持ちよく飛ばせています。
極意:高い視座から見下ろせ!心に余裕を持つと、仕事の「視野」が広くなる
Q.次なる目標は?
僕の最終目標は、アメリカのツアーで優勝することです。2022年は日本のシードに加え、アジアのツアーでもシードを取ることが出来た。23年はアジアでしっかり成績を残して、アメリカの予選会にも積極的にトライしていきたいですね。もちろん日本の試合も大事ですが、今は海外に打って出る時。予選会をクリアし出場権を取って、早ければ24年にアメリカで優勝したい。この数年が勝負だと思っています。
アメリカは、ゴルフにおける世界最高峰の舞台です。ほかの国とは選手層の厚さがまったく違う。物理的な身体の大きさも、日本人は欧米人に比べるとどうしても小さいですからね。僕は日本国内では比較的飛距離の出せる選手ですが、アメリカでは飛ばないほう。そんなアメリカでチャレンジするわけですから、もっとトレーニングをして身体を大きくして、ヘッドスピードを上げていかないと。それからもう一つは「繊細な感覚」ですね。例えばグリーン周りのアプローチは、手先の感覚がとても大事になります。その辺りの繊細さは、日本人が欧米人に勝てる部分だと思っていますから、研ぎ澄ませていきたいですね。
極意:目標は常に高く持て!そして達成までの「アプローチ」を冷静に分析しよう
Q.トレーニングで心がけていることは?
以前は、トレーニングはもちろん頑張っていましたが、「意識を高く持つ」ことをしていなかったと感じています。スクワットならスクワットに、ベンチプレスならベンチプレスに単体で取り組んでいた。3年くらい前にトレーナーさんをつけてゴルフのスウィングに近いトレーニングを取り入れ始め、身体の柔軟性、可動域、パワーの3つが向上すると、それが初優勝に繋がりました。スクワット一つとっても、その動きがゴルフのどこに活きるのか、常に意識することが大切です。今でも、時々トレーナーさんと20代前半の頃の自分のプレーを動画で見るんですが「よくこのスウィングで優勝したいと思っていたな」というくらい仕上がっていなかった。意識が足りていなかったんだと思います。
僕のトレーナーは、ゴルフをしない人です。「ゴルフを覚えてしまうと、技術的なことを言ってしまいそうでイヤだ」と。彼が教えてくれるのは、「より良い身体の動かし方」です。それをスウィングにどう落とし込むかは、コーチと僕の仕事。そんなふうに役割分担が出来ています。すごく良いチームワークですね。
一方、どんな競技にも通底する身体の使い方があります。例えば野球とゴルフには“体幹”や“軸の保持”など、共通点が多々ある。プロ野球選手の練習を見ながら、自分にどう応用出来るか、勉強させてもらうこともあります。小手先の技術よりも、「身体の動かし方」を向上させること。それを教わってから一気に上達しました。でも、まだまだ僕が分かっていない体の動かし方もあるだろうし、筋肉をつけてスウィングに落とし込むという作業にも伸びしろがあると思っています。この先のトレーニングを通じて自分がもっと強くなっていくと考えると、楽しみですね。
極意:スキルアップのための勉強や練習が実践にどう活かせるか、しっかり意識しろ!
技術も大事だが、それより先にビジネスの基礎体力を高めろ!
Q.コミュニケーションについて
先ほどもお話ししましたが、ゴルフは個人競技と思いきや、じつはチームワークが大切なスポーツです。身近な存在としてキャディ、コーチ、トレーナー、マネージャー等が居ますが、僕の場合、ほぼ全員が年上。当然、気を遣う場面も多々あります。でもだからこそ、敢えて自分の「素」をさらけ出して、思っていることを皆に言う、そして皆の意見に耳を傾けることを心がけています。意図的に、そういう場を作るようにしていますね。
もう一つ、大事にしているのが「雑談」です。雑談は、無いといけないものだと思います。競技の話だけだと、調子が良い時はいいですが、調子が優れない時にチーム皆の雰囲気が重苦しくなってしまう。そうした時、気持ちの切り替えに最適なのが雑談なんです。僕は食べ物の話が多いですかね。焼き肉がとにかく好きなので、「どこそこの焼き肉屋さんが美味しかったよ」なんてよく話していますよ。
極意:仕事仲間とのコミュニケーションは、本心をさらけ出してぶつかっていけ!
Q.オフの過ごしかた
僕、ゴルフのことを考えない日が無いんです。22年に13連戦の試合があった時はさすがに肉体も精神も擦り切れてしまって、トレーナーに相談して1日だけ完全オフを取ることにしました。でもやはり、朝起きた瞬間からゴルフのことを考えてしまって。「今日は絶対に休むんだ」と自分に言い聞かせて、頑張って練習に行かずに耐えましたけど。自宅でそわそわしながらゲームとかしていましたね(笑)。
本当は他に夢中になれる趣味が欲しいとも思っているんです。その方が考えも広がって、ゴルフにも活きてくるはずだし。それで一瞬、釣りを始めました。住んでいるところは海が無いので、ブラックバス釣りなんですが、始めて1ヶ月くらいですごく大きなのが釣れて「これはハマりそうだぞ」と。そうしたら今度は2ヶ月くらいまったく釣れなくて。ムカついて止めました(笑)。僕はゴルフの選手だから、平常心を保つのは自信があったんですけどね…さすがに2ヶ月は耐えられませんでした。
Q.ゴルフに縁が無かった人に一言
ゴルフ=年配のスポーツと思われがちですが、老若男女にとって健康のために最高のスポーツだと思います。身体への負担もそこまで大きくないですし、誰でも手軽に始められて、コースに出始めると自然に歩いたり走ったり。それで面白くなったら、もう止められませんよ。最初は練習場からで良いので、気軽に始めてほしいですね。練習場では、手ぶらで行っても道具も貸してくれますし。ユニフォームなんかもオシャレなのが出てきて、ファッションとしても楽しめます。ただ、最初は会社の上司とは行かないほうがいいですね、気を遣わないといけないので(笑)。
Q.今後の人生ビジョンは?
ゴルフはシニアになっても戦えるスポーツです。だからまずは、60歳まではゴルフを続けたい。そこまで戦い続けられるように、日頃の食生活等も気をつけていますしね。僕にとって、ゴルフの無い人生は考えられません。ゴルフ即ち人生なんです。そんな存在を仕事にすることが出来て、本当に幸せだと思っています。今も日々、自分がより強く、上手くなっているのを感じますから、23年も気合いを入れて、一つひとつ戦い抜きますよ。
極意:ワークライフ・バランスではなく、ワークライフ・インクルージョンであれ!
いかがだっただろうか。氏が図らずも「ゴルフと野球との共通点」を語ったように、スポーツとビジネスの間にもまた、共通する黄金則がある。木下プロのコース上とは異なる柔和な表情を見ながら、そう確信した。一流とは即ち、ジャンルや領域に捉われない、汎用性の高いスキル、モチベーションのことを指すのだ。今回伺った極意は、半年先でも1年先でもなく、今日から使える要素に満ちている。皆さんも自分の仕事ぶりに照らして、より高いパフォーマンスの発揮に役立ててもらえれば幸いである。